三蔵
提供: 新纂浄土宗大辞典
さんぞう/三蔵
一
釈尊の教えである「経」、仏教教団の規則である「律」、教義の綱要書である「論」、つまり仏教聖典を総称した呼び名。三学とも対応する(戒と律・定と経・慧と論)。原語はⓈtri-piṭakaⓅti-piṭaka。「蔵」ⓈⓅpiṭakaとは収蔵の容器・入れ物の意味。釈尊滅後の第一結集において大迦葉の主導のもと、阿難が経を誦し、優波離が律を誦し、会席僧がそれを確認しあった。これをもって三蔵中の経と律がまず成立する。論は根本分裂後に、各仏教部派が自身の教義解釈を打ち立てた産物であり、論の存在は仏教の展開を示す根拠でもある。ここでの論の原語「アビダルマ」は、無漏慧の資糧である勝法、もしくは涅槃などに対する対法の意味である。
【参考】櫻部建『俱舎論の研究—界・根品—』(法蔵館、一九六九)、大正大学仏教学科編『仏教とはなにか—その歴史を振り返る—』(大法輪閣、一九九九)
【執筆者:中御門敬教】
二
⇨三蔵法師(さんぞうほうし)
三
三乗の立場・目標・教法とを積集したものを、個々に声聞蔵・縁覚蔵・菩薩蔵と言い、それを総称した呼び名。初期仏典には見られず、初期大乗経典以後に確認できる概念。例えば『阿闍世王経』には、「何等をか三蔵と謂うや。声聞蔵、辟支仏蔵、菩薩蔵なり」(正蔵一五・三九八上)と説かれる。三蔵中の特に菩薩蔵に関する言及が初期大乗経典に多く見られ、大乗教理との密接な関係が理解できる。大乗経典の別名になる場合もある。後世の唯識瑜伽行派の『瑜伽論』所説との関係も見落とせない。また唐・玄奘訳『大宝積経』菩薩蔵会(正蔵一一)のように、それを固有名にした仏典も存在する。
【参考】平川彰『初期大乗仏教の研究』一(『平川彰著作集』三、春秋社、一九八九)、Ulrich Pagel:The Bodhisattvapiṭaka, Tring, U. K., 1995.
【執筆者:中御門敬教】