律宗念仏
提供: 新纂浄土宗大辞典
りっしゅうねんぶつ/律宗念仏
律宗で行じられる念仏のこと。律宗では浄土や念仏についての統一的な見解や教義が伝承されたわけではなく、諸師それぞれが独自の解釈にもとづいた念仏を説いている。南山律宗開祖の道宣は、浄土教を釈尊が愚鈍な凡夫のために仮に説いた教えとして理解しており、理観を行じさせるための方便として具体的な仏の相好を念じる観相の念仏を勧め、罪障消除のための事懺の行業として持名念仏を説いている。また道宣は、『四分律行事鈔』瞻病篇において、臨終間際の病人に極楽へ往く想いをもって阿弥陀仏に心を向けるべきことを勧めている。中興の祖である元照は、観想と持名の念仏を説いている。観想念仏は『観経』十六観に基づく有相の仏身や浄土の様相を観ずる内容であるが、劣機のための事観としていない。また持名念仏(称名・聞持)は多善根であり、賢愚・貴賤・善悪に関係なく、必ず阿弥陀仏の本願力(第十八願)によって平等に往生できる行であると述べている。両者の念仏は宋代以降の中国や鎌倉期以降の日本に流布し、後代の律僧に影響を与えている。
【資料】道宣『釈門帰敬儀』『四分律行事鈔』、元照『阿弥陀経義疏』『観経新疏』
【執筆者:吉水岳彦】