阿闍世
提供: 新纂浄土宗大辞典
あじゃせ/阿闍世
釈尊在世時代にインドの南ビハール地方を領土としていたマガダ国の国王。ⓈAjātaśatruⓅAjātasattu。意訳して未生怨とも訳す。父は頻婆娑羅(ビンビサーラ)、母は韋提希(ヴァイデーヒー)とされる。生没年は不詳だが、『マハーヴァンサ(大史)』等スリランカの伝承では仏滅八年前に即位し三二年間王位にいたとの記述がある。悪友の提婆達多(デーヴァダッタ、調達)にそそのかされて王位を奪うことをくわだて、父王を幽閉し、餓死させようとする。この王位簒奪の経緯は数多くの仏典に説かれ、「阿闍世説話」として有名であり、『観経』の冒頭に置かれる物語もその一つである。『観経』では、幽閉された頻婆娑羅王にひそかに食物を運んでいた王妃韋提希も、阿闍世に見つかって幽閉されてしまう。悲嘆の中で彼女は釈尊に救いを求め、その願いに応じて、醜い現世を離れ清浄な阿弥陀仏の極楽世界を目の当たりにする観想法を釈尊が説くのが『観経』の基本構成である。類似の説話は、初期経典、律蔵、論書、大乗経典などに多数存在しており、阿闍世説話がインドから時代を越えて幅広く語り継がれてきたことを示している。また、善導の『観経疏』序分義には阿闍世出生の由来などが詳しく述べられており、この説話が成立し伝承されてきた背景を考える上でも重要である。
【参考】定方晟『阿闍世のすくい─仏教における罪と救済─』(人文書院、一九八四)、末木文美士・梶山雄一『観無量寿経 般舟三昧経』(『浄土仏教の思想』二、講談社、一九九二)
【参照項目】➡阿闍世コンプレックス、王舎城
【執筆者:山極伸之】