虚無主義
提供: 新纂浄土宗大辞典
2018年3月30日 (金) 06:22時点における192.168.11.48 (トーク)による版
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きょむしゅぎ/虚無主義
権威や道徳的価値を認めない立場。すべてを無意味ととらえる態度のこと。ニヒリズム(Nihilism)の訳語。西欧ではニーチェの思想に代表される。インドでは仏教徒が虚無主義者(Ⓢnāstika)とみなされることがあった。また仏教のなかでも特に中観派は、あらゆるものに固有の実体(自性)を認めず、インドだけではなく近代の西洋の学者からも虚無主義と理解されることがあった。おおよそ古今東西を問わず、仏教とくに空の思想は虚無主義とみなされやすいといえる。確かに、空の思想を説く諸経論は、あらゆるものを否定しているようにみえ、またそれをもとに教理体系を築いた中観派は虚無主義と考えられ得る。しかし、虚無主義が、あらゆるものごとは無意味であると考える立場であれば、空を説く経典や中観派を虚無主義とみなすことは一考を要する。なぜなら、そのような経典も中観派も仏教思想である以上、やはり仏陀を最高の存在として考え、仏陀の教えを順守する姿勢が必ずあるからである。むしろ空を説くのは、それによって仏陀の真意を明らかにしようという意図に基づいているのである。その点を考えれば、それらを一概に虚無主義とよぶことには注意が必要といえる。
【執筆者:石田一裕】