「キリスト教」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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キリストきょう/キリスト教
イエスという一個の歴史的人物において、神が人類に対する救済の出来事を完成したと信じる宗教。表現をかえれば、イエスをキリスト(メシア・救世主)と信じる宗教のことである。キリストは、ヘブライ語メシア(原音ではマーシーアッハ)のギリシア語訳である(原音でキリストはクリストスChristos)。
[成立]
キリスト教は、ユダヤ教、イスラム教とともに、いわゆる預言者的宗教あるいは倫理的唯一神教の系譜に属する。紀元一世紀に、パレスチナの辺境に生まれたユダヤ人イエスが、律法主義化した当時のユダヤ教を批判して、神の本質がすべての人を救う救済の意志であることを身をもって説き示したことに端を発している。彼の教えは、外国による支配と国内の特権階級による重圧の下に苦しんでいた民衆の間に急速に広まったが、イエスは新しい宗教を創始する暇もなく十字架によって処刑された。彼の死後、彼の生涯と死についてその弟子たちの間に広まった復活信仰を支えとして、神の愛による救いと永遠の生命への道を説く教えとして始まった。初代の信徒たちは、イエスを神の啓示またキリスト(メシア)であると告白して、イエスの生と死の後に従おうとした。その後キリスト教は、パレスチナから古代地中海世界一帯に進展し、多くは下層の多様な人々からなる信仰共同体を生み出しつつ、イエスの生と死を通して啓示された神の救いの愛に応えて生きようとする倫理的・宗教的エートスをもつ宗教として確立されていく。
[聖書]
聖書を意味する英語Bibleとはギリシア語biblos(パピルスの芯)の巻物biblionの複数形bibliaから出た語で、元来書物を意味するが、キリスト教の経典として「まことの書物」という意味合いを込めて用いられている。『旧約聖書』とは元来ユダヤ教の経典であるが、キリスト教徒はこれを正典として受容した。『旧約聖書』は、律法、預言書、諸書の三部に分かれる。前三世紀、今日の形に近く編纂され、ギリシア語訳七〇人訳旧約聖書(セプトゥアギンタ)も作られた。爆発的に拡大しつつあったキリスト教がこのギリシア語訳を正典としたのに対抗して、ユダヤ教は一世紀末、ギリシア語訳から七書少ない現在の三九書をユダヤ教正典とした。ちなみにカトリックに対抗したプロテスタントは、ユダヤ教正典にならい旧約正典を三九書と定めた。『新約聖書』は、イエスの福音活動を中心にした四福音書、ペテロ、ヨハネ、パウロを中心にした使徒行伝、パウロの各教会に宛てた手紙その他、初代教会の指導者による書簡、およびヨハネ黙示録など二七書から成る。このようにキリスト教は、ユダヤ的な伝統とギリシア的な伝統の上に形成されてきたという点で、その宗教としての成立の当初から、ヘブライズムとヘレニズムの文化融合的な側面をもっている。キリスト教の『新約聖書』がギリシア語で書かれている事実が、そのことを端的に示している。
[現代のキリスト教]
二〇世紀になって、キリスト教内部にプロテスタントを中心にして、宗派や教派を超えた教会の一致を目指す世界教会一致運動(エキュメニカル運動)が高まり、キリスト教以外の諸宗教との対話が真剣に考慮されるようになった。このような宗教間対話は、一九世紀のヨーロッパ諸国の植民地政策とともに全世界に広まったキリスト教の絶対性を問い直し、多様な神学や他宗教の立場を認め、キリスト教に支えられた近代的価値観に対する批判を含む脱近代、すなわち脱ヨーロッパ・キリスト教を意味している。カトリック教会は第二ヴァチカン公会議以後、他宗教に対する排他主義の考えを放棄して宗教対話路線をとり、極端なファンダメンタリスト(キリスト教原理主義)を除いてプロテスタント教会とも対話路線に入っている。その一方で、パレスチナ問題に端を発して、イスラム世界との対立が激化している。アメリカ合衆国の九・一一同時多発テロに見られるような、イスラム原理主義者による過激なテロ活動の撲滅を旗印にしたアメリカのキリスト教原理主義は、キリスト教シオニズムの立場を強くもち、現在のイスラエル政権を支えるユダヤ教正統派のユダヤ教原理主義に容易に結びつく。現代の中東問題は「原理主義」によって生み出されているという側面がある。
[宗教人口]
現在キリスト教は欧米圏を中心に約二〇億の宗教人口をかかえている。これは世界の宗教人口の三二・九%を占めることになる。それに対してイスラム教は、アジア・アフリカを中心に人口約一二億人に広がっており、一九・七%を占めている。実にキリスト教圏とイスラム教圏で、世界の宗教人口の五〇%を超えている。仏教はアジアを中心に、約三・六億の宗教人口をかかえている。ヒンドゥー教もアジアを中心に、約八億の人口を有する宗教である。
【参考】小田垣雅也『キリスト教の歴史』(講談社学術文庫、一九九五)、ジャン・ダニエルー他『キリスト教史』全一一巻(平凡社ライブラリー、一九九七)、大貫隆他編『岩波キリスト教辞典』(岩波書店、二〇〇二)、土井健司『キリスト教を問いなおす』(ちくま新書、二〇〇三)、挽地茂男『図解雑学 キリスト教』(ナツメ社、二〇〇五)
【執筆者:挽地茂男】