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三性・三無性

提供: 新纂浄土宗大辞典

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さんしょう・さんむしょう/三性・三無性

中観ちゅうがん派の透徹した空性くうしょうを虚無的とみた瑜伽ゆが行派が、ものごとの存在性に通底する三条件を規定し、その三重性から空性をとらえなおした教説。三性、または三自性とは、玄奘訳では、遍計所執へんげしょしゅう自性(Ⓢparikalpita-svabhāva)、依他起えたき自性(Ⓢparatantra-svabhāva)、円成実えんじょうじつ自性(Ⓢpariniṣpanna-svabhāva)である。遍計所執自性は、われわれが認識する世界だが実はことばに依存するものの見え方。依他起自性は、縁起により生滅するものごとの姿。円成実自性は、一切法共通の性質である空性のこと、すべてに遍満する真実なのでこう呼ばれる。自性とは本来、永劫不変の実在を意味し、三自性はそれに合致しない。これら三性の不成立を規定するのが三無性、無自性性(自性たりえないことの意)である。遍計所執自性は分別に付加された本来存在しない特性であるので相無性(Ⓢlakṣaṇa-niḥsvabhāvatā)であり、依他起自性は縁生の独存したものでないので生無性(Ⓢutpatti-niḥsvabhāvatā)であり、円成実自性は無自性そのものであるので勝義無性(Ⓢparamārtha-niḥsvabhāvatā)という。また三性説は迷悟の転換の機構も表すものであり、遍計所執自性への執着を離れることで依他起自性において円成実自性たる空性が現れ出る。すなわち縁起である依他起自性は煩悩と覚りの契機であり、染浄双方に属する。それを『摂大乗論』(正蔵三一・一四〇下)では金土蔵の喩により、金鉱石(依他)は土の姿(遍計)をとっているが、火(智)に熱せられると金の姿(円成)が現れ土の姿が消滅するという金鉱石上の金土二相の顕現で説明する。また同様の喩えで蛇縄麻だじょうま譬喩も『摂大乗論』所説(正蔵三一・一四三上)が発展したものである。


【参考】竹村牧男『唯識三性説の研究』(春秋社、一九九五)


【参照項目】➡唯識


【執筆者:小澤憲雄】