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現世利益

提供: 新纂浄土宗大辞典

げんぜりやく/現世利益

現益・現生益ともいい、神仏の霊験はとくに利生りしょうと呼ぶこともあるが、現当げんとう現世来世)二世の利益といい、来世に得られる利益当益とうやくというのに対して、現世にあって、釈尊の遺した経典を信じ、読誦ないし真言念仏題目などの行を修することによって得られる利益のことをいう。『法華経薬草喩品やくそうゆぼん第五には「是の諸の衆生、是の法を聞き已って、現世安隠にして後に善処に生じ、道を以て楽を受け、亦法を聞くことを得」(正蔵九・一九中)とあり、如来説法を聞いた衆生現世の安穏を得て、さらに来世には善処に生まれると説かれている。また鎮護国家除災招福を祈るために『金光明経』『仁王般若経』『法華経』が護国三部経となり、寺院は多種多様な現世利益をもたらす仏・菩薩を祀り、長い間、人々の願いに応えてきた。現世利益を標榜する神社仏閣の発行する祈禱札が国家安穏・五穀豊饒・豊漁祈願世界平和・家内安全・商売繁盛・業務達成・笑門来福・防災消除・安産祈願・子孫繁栄・大願成就・立身出世・無病息災・諸病平癒・身体健全・厄除開運・福徳開運・宝籤命中・良縁祈願・恋愛成就・学業上達・合格祈願・航海安全・交通安全・工事安全などと多彩なことから分かるように、共同体・家・個人の各レベルから生業・栄達開運・治病・衣食住のすべての生活局面にわたって人生のあらゆる問題と結び付いている。しかし、法然の立場は、『浄土宗略抄』のなかで「いかなる諸の仏神に祈るとも、それによるまじき事なり。祈によりてやまいみ、命もぶる事あらば、誰かは一人として病み死ぬる人あらん」(聖典四・三六七/昭法全六〇四)と述べて無闇な利益をもとめる祈禱を戒めている。また、現当二世利益というように念仏には現世利益来世利益のあることが説かれているとはいえ、「不求自得ふぐじとく」、すなわち仏道を行ずるなかに求めずして自ずから得られるものであることが説かれていることを忘れてはならない。


【参考】吉田禎吾『呪術』(講談社、一九七〇)、藤野岩友「占卜に関する二、三の問題—わが国を中心にして」(『日本祭祀研究集成』一、名著出版、一九七八)、藤井正雄『日本人とご利益信仰』(もんじゅ選書、講談社、一九八六)、藤井正雄ほか監修『日本占法大全書』(四季社、二〇〇六)


【参照項目】➡現当二益


【執筆者:藤井正雄】