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源空聖人私日記

提供: 新纂浄土宗大辞典

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げんくうしょうにんしにっき/源空聖人私日記

一巻。『私日記』とも。作者不詳。親鸞書写の『西方指南抄』中末に収録するので、同書が書写された康元元年(一二五六)以前の成立と考えられる。漢文体の法然の伝記。題名は源空法然聖人の伝記を私的に記録したという意味をもつ。従来から法然の諸伝記で最古に属するものと推定されてきたが、諸伝記との比較によって、現在では二次的な伝記史料と見なされている。内容は、①世系・誕生②父の死・出家③比叡登山・修学④遁世・法華修行等の奇瑞上西門院説戒高倉天皇得戒⑦諸宗旨に通暁⑧浄土門に帰入、善導と夢中対面⑨皇円の事⑩大原問答⑪宝樹等現出の奇瑞頭光踏蓮奇瑞⑬流刑⑭病臥・入滅公胤夢告・遺徳讃嘆の一五項から成る。このうち例えば、⑦⑧⑨は『醍醐本』のいわゆる「一期物語」の記事と用字・表現において類似し、③④⑤⑥および⑪は『四巻伝』の記事と部分的に内容が一致する。こうした類似性は、『醍醐本』や『四巻伝』が本伝記を参照したというよりも、逆に本伝記が『醍醐本』や『四巻伝』を抜粋して記事をなしたと見る方がよく理解できる。本伝記は先行の法然伝記資料から、法然が「弥陀如来の応跡」(法伝全七七一上〜下)「勢至菩薩化身」(同七七一下)すなわち「権化の再誕」(同七六九上)であることを示す記事、またそれにまつわる霊験や、臨終・往生における奇瑞などの箇所を抜粋したものといえる。作者については、「信空上人見之怖驚給」(同七六九上)「信空同見其光」(同七六九下)とあって信空の名が二度も見え、かつ信空に「法蓮房也、聖人之同法」(同七六九下)と注記するところから、信空系の人物と推定されている。しかし、ここは『四巻伝』に依拠した記事であり、『四巻伝』作者の躭空(湛空)が信空弟子でもあったから、信空の名が二度現れるのは当然で、本伝記作者を信空系と推断する根拠とはなしえない。本伝記が他書に引かれるのは、正嘉元年(一二五七)に愚勧住信が編集した『私聚百因縁集』が最初である。


【所収】浄全一七、正蔵八三、真聖全四、法伝全


【参考】中井真孝『法然伝と浄土宗史の研究』(思文閣出版、一九九四)、中野正明『法然遺文の基礎的研究』(法蔵館、一九九四)


【執筆者:中井真孝】