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法然上人伝

提供: 新纂浄土宗大辞典

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ほうねんしょうにんでん/法然上人伝

一〇巻。『黒谷上人伝』『十巻伝』『西山十巻伝』とも。法然の漢文体の伝記。玄智『浄土真宗教典志』には「作者未詳。三河山中法蔵寺蔵本。世称西山十巻伝。典実同古徳伝。怪異類正源明義鈔。間有似舜昌伝。第六載吾祖略伝」(仏全一・八八下)とあるも法蔵寺本は現今散逸。撰述年代は一巻奥書では「大永六年(一五二六)丙戌二月十四日」(法伝全六五九上)とあるが、五巻では「文明一九年(一四八七)」(法伝全六九二下)となっていて一致をみない。内容は「聖人誕生事」「幼稚異相事」など七九段に分けて法然の生涯を記している。標目の立て方は、他伝の中で道光の撰述とされる『知恩伝』(高瀬承厳旧蔵の写本、現今散逸。活字『法伝全』)と最も近似し、両伝にのみ有する記述も見出されることから何らかの関係性が指摘される。共通箇所を比較するに『知恩伝』は文章を簡略化し一部を補うという態度を取り、本伝は原典から忠実に文章を引用していると考えられることから、両伝の典拠となる何らかの同一原典が予想される。また「親鸞上人浄土門事」など『古徳伝』とのみ共通する箇所もある。


【所収】浄全一七


【資料】法伝全、真聖全下


【参考】井川定慶『法然上人絵伝の研究』(法然上人伝全集刊行会、一九六一)、田村円澄『新訂版 法然上人伝の研究』(法蔵館、一九七二)


【執筆者:南宏信】


上下二巻の絵詞伝。内題はなし、外題に『法然上人伝』とあるが、増上寺に蔵される残欠本であるため、「増上寺本」あるいは「残欠二巻伝」「残欠二巻本」とも呼ばれる。国重要文化財。慶長一五年(一六一〇)存応が後陽成天皇から下賜されたと伝えられる。鎌倉後期の作品とみられていて、詞書は後二条天皇、梶井宮かじいのみや空性法親王の書き継ぎ、絵は土佐吉光とされるが、絵図の紙継ぎや、詞書の筆法の違いに不自然な点もあり、成立については詳らかでない。上巻は、唐突に漆間時国供養から記し、母子訣別、源光入室までがあり、下巻は、剃髪黒谷遁世後白河法皇談義二祖対面三尊影現ようげん大原談義上西門院談義説戒などの記事がある。詞書には「源空上人」という名称が使われているが、上巻の冒頭の記述や、いくつかの記事に『四巻伝』との類似点がみられ、その影響を受けていることが明らかである。


【所収】法伝全、浄全一七


【参考】三田全信『成立史的法然上人諸伝の研究』(平楽寺書店、一九七六)、阿川文正「増上寺蔵『残欠二巻伝』の原本紹介とその考証」(『櫛田博士頌寿記念 高僧伝の研究』山喜房仏書林、一九七三)


【執筆者:野村恒道】


一巻。『黒谷上人伝』『上人伝』『本伝』『一巻伝』ともいわれる。信瑞作の法然伝。現存しないが、鎌倉後期から室町時代にかけて流布し諸書に引用される。とくに澄円獅子伏象論』の長い引用は内容を知る大きな手掛りとなる。引文中の建暦二年(一二一二)法然入滅から「爾来五十余年」との記述から、成立年は弘長・文永年間(一二六一—一二七五)と考えられる。『四十八巻伝』二六に、弘長二年(一二六二)信瑞は鎌倉へ下り北条時頼に「上人の伝」を進呈したといい、弘長二年は法然入滅から五一年であり、この話には一定の信憑性がある。内容は『醍醐本』「一期物語」に拠るところが大きい。失われた『明義進行集』一(巻二・三存)は本書と内容的に近いと推測される。また『古徳伝』や『弘願本』は本書の記事を採用している。なお『獅子伏象論』の引文には、澄円による付加文があるとされ注意が必要。


【参考】井川定慶「信瑞の法然上人伝と明義進行集巻第一に就て」(『仏教学雑誌』三—七、一九二二)、大橋俊雄「信瑞撰法然上人伝に就て」(『芸林』四—二、一九五三)


【執筆者:善裕昭】


静岡県島田市天台宗智満寺所蔵の紙本墨書『称讃浄土経』一巻の紙背に書かれている法然上人の伝記。奥書に「建暦二壬申歳二月晦日、三十五日の追善畢、上人の言葉を中将姫称讃浄土経のうらに書置也、同三月二日隆寛書之」と、隆寛作とする伝記であることを宇高良哲が正大紀要六九(一九八四)に紹介した。内容は①流罪赦免、勝尾寺滞留、大谷禅坊居住と『一枚起請文』が源智ただ一人に授受されたものではないこと、②法然が生前に天台宗の御願所である浄華院に法具や書籍を収めたことより、「もし遺跡と思ワんは浄華(院)なるべし」と、亡くなる前日二四日に物語ったことを「同伴残らず聞き給う」たことを記す二部からなる。製作時期は、清浄華院一条派の拠点となり朝廷・公家の帰依を受けて栄える室町期とみられる。『九巻伝』『四十八巻伝』を参照していて、ことに近世写本しか伝来しない『九巻伝』の研究に重要な史料である。


【所収】宇高良哲「新出の隆寛作『法然上人伝』について」(正大紀要六九、一九八四)


【参考】中井真孝『法然伝と浄土宗史の研究』(思文閣出版、一九九四)


【執筆者:今堀太逸】


大橋俊雄訳。上下二冊。『法然全集別巻』一、二として、平成六年(一九九四)春秋社から刊行。『四十八巻伝』の現代語訳。本文と現代語訳を上下段に配し、巻末に語注が付されている。


【参照項目】➡大橋俊雄法然上人行状絵図法然全集


【執筆者:編集部】