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摧邪輪

提供: 新纂浄土宗大辞典

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ざいじゃりん/摧邪輪

三巻。具名を『於一向専修宗選択集中摧邪輪』という。明恵撰。建暦二年(一二一二)成立。『選択集』に対する批判の書。撰述の動機は、『選択集』を被見し、当時見聞していた専修念仏ならびに善導に対する解釈等の誤りの元は『選択集』にあったとし、そのことを専修の門人に対して示しただそうとしたことである。本書では、『選択集』には大過として「菩提心を撥去する過失」「聖道門を以て群賊に譬える過失」の二つがあるとし、さらに前者には①菩提心を以て往生極楽の行とせざる過、②弥陀本願の中に菩提心なしと言う過、③菩提心を以て有上小利とする過、④『無量寿経』に菩提心を説かずと言い、並びに弥陀一経止住の時、菩提心なしと言う過、⑤菩提心念仏を抑うと言う過、などの五過があるとする。一方、本書撰述の翌年に書かれた『摧邪輪荘厳記』では『選択集』には大小合わせて一六種の過失があり、『摧邪輪』では一三種の過失を出し、『摧邪輪荘厳記』において三種の過失を挙げるとしている。本書に示される一三種を『摧邪輪荘厳記』の記載順に挙げれば、①から⑤は前の五過、⑥聖道門を以て群賊に譬える過、⑦群賊の喩えの中に自らの過失を隠す過、⑧浄土三悪趣ありと云う過、⑨浄土より没して穢土悪趣に堕すと云う過、⑩往生宗中、観仏三昧念仏三昧別体と執する過、⑪「光明遍照」の経文を誤解する過、⑫仏果一切の功徳名号功徳には及ばずと云う過、⑬能立の一宗、成ぜざる過、などである。しかし本書での論述順は『摧邪輪荘厳記』の記載順ではなく、⑦~⑬は①~⑥の中において散見される。本書を反駁した書に、中道寺覚性『扶選択論』(七巻)、同『護源報恩論』(一巻)、朝日山信寂『慧命義』(一巻)、道光新扶選択報恩集』(二巻、一三二二)、同『扶選択正輪通義』(一巻、一三二二)、袋中良定評摧邪輪』(一巻、一六一九)、真迢念仏選摧評』(一巻、一六四〇)等があるが、覚性・信寂のものは伝わらない。写本が仁和寺(国重要文化財)、六波羅蜜寺、醍醐寺、高野山大学に所蔵される。


【所収】浄全八、日蔵七四、鎌田茂雄・田中久夫校注『鎌倉旧仏教』(岩波書店、一九九五)


【参考】喜海『明恵上人行状記』下(高山寺典籍文書綜合調査団編『明恵上人資料』一、東京大学出版会、一九七一)、田中久夫『明恵』(吉川弘文館、一九六一)、石田充之『鎌倉浄土教成立の基礎研究』(百華苑、一九六六)、末木文美士『日本仏教思想史論考』(大蔵出版、一九九三)


【参照項目】➡摧邪輪荘厳記


【執筆者:米澤実江子】