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吉水流詠唱

提供: 新纂浄土宗大辞典

よしみずりゅうえいしょう/吉水流詠唱

浄土宗教化運動の一つとして浄土宗吉水講の組織のもと、詠歌和讃とそれを表現する舞を総称していう。その母体吉水講宗務庁教学局内に置かれる詠唱委員会によって運営され、知恩院増上寺善導寺の三総本部を核とし全国各支部構成にて実動する。吉水流詠唱は、何調という旋律が先にあって歌詞を載せる他宗のそれと違い、祖師の御作を基とする表現の曲が多く、舞も加えて心の表現を重視する。この理念が講発足以来貫かれている。詠唱のうち、詠歌は〈五・七・五・七・七〉の和歌に節を付けたもの。和讃には二種あって、七五調二行詩の節付ふしづけのものと、七五調四行詩の節付けのものとがある。いずれも教化伝道の一方法として、古い「今様いまよう」にみるように平安時代に端を発すると考えられるが、阿弥陀仏、観音・地蔵両菩薩信仰や宗祖霊巡礼・巡拝盛行と共に詠歌和讃が発展し、泰平の江戸時代にその充実をみた。吉水流詠唱の特徴は、文学面よりみて、在世時より和歌の名手として著名な宗祖法然の多数の直作を、詠歌和讃として唱えていることである。このことは、今も祖師に直参しているという、他に比をみない特色といえよう。特に二十五霊場御詠歌や「いけらば念仏和讃」などは、祖師の信念を切々と歌い上げている。その他、公募による仏教行事・宗門行事の新作和讃等によっても、念仏助業としての詠唱の内容充実を図っている。音楽面よりみると、詠唱の基調は東洋の五声音階になる曲調である。これは民族の心の音階であり、法式声明しょうみょうと同属の特徴を持っている。これに陽旋法・陰旋法の二種の曲調がある。古来の唱えには「何々調」という定形旋律の美しさを追うものが多い。昭和二一年(一九四六)の吉水流詠唱教化発足以来、その古来のよさも取り入れつつ、祖師のこころ、日本語の心を尊重する心情的旋律の詠歌和讃を五声音階の曲としていることも、吉水流詠唱の大きな特徴である。東西音楽の交錯している現代、楽理面・演奏面・楽譜面で、その長所を取り入れることも大切であり、浄土宗が五線譜を用いているのもその一つである。その他に「図表譜」なる視覚的楽譜も創作して、読譜の不足を補っている。伴奏楽器も、古来のれいしょう等の打楽器のほか、管・絃・有鍵楽器での和声的伴奏も付すという、他の教団と異なった特色も持っている。舞はお唱えの「心」を体の動きで表現するもので、一人舞・組み舞・坐舞・立舞等があり、それも和舞わまい洋舞ようまいと多彩である。曲により舞扇・花・すずその他を使うこともある。これら舞の分野を重視しているのも他宗には見られない特徴である。こうした詠歌和讃は「歌う」のでなく、仏前に「お唱え」するのであり、舞は「仏に捧げ」る姿の具現である。いずれも拝む心と合掌の姿を基調とする。


【執筆者:松濤基道】