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円頓戒

提供: 新纂浄土宗大辞典

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えんどんかい/円頓戒

円満頓足に法身般若解脱三徳具足する戒法で、天台宗浄土宗に伝えられる最高の大乗戒円頓菩薩戒ともいい、また円戒、頓戒、円融制戒金剛宝戒、仏性戒、一乗戒一乗円戒一心戒一心金剛戒などと称される。円頓戒と称したのは後世のことで当初は円戒と称されていた。『法華経』『梵網経』『瓔珞経』の三経によってインド・中国・日本の展開を経て最澄によって完成した。円頓戒には二つの相承がある。一つは台上相承で、梵網相承とも舎那相承ともいわれ、蓮華台世界盧舎那仏から釈尊阿逸多菩薩—二十余菩薩鳩摩羅什—慧思—智顗灌頂—智威—慧威—玄朗—湛然道邃どうすい、そして日本の最澄・義真へ相承されたとする流れをいう。もう一つは霊山相承で、法華相承とも塔中相承ともいわれ、霊山会上多宝塔釈尊から慧思と智顗相承されたとするもので、智顗以後は梵網相承と同じである。最澄以後は円仁と光定へ、円仁には安慧—猷憲—長意—良勇—尊意と次第するものと、慧亮—常済—理仙—良源次第するものとがあり、さらに良源には源信恵心流と覚運の檀那流がある。また円仁と光定から長意—玄昭—智渕—明請を経て栄西相承した葉上流と、延昌—尋禅—源心—禅仁—良忍相承がある。良忍には叡空法然黒谷流、薬忍—湛斅大原流、厳賢から良鎮への大念仏寺流がある。一方義真は円珍へ、円珍は尊意と遍昭へ、尊意は慈念—覚慶—厳渕—覚猷—延猷の三井流となり、遍昭は安然—玄鑑の花山流となる。この中もっとも栄えたのが黒谷流である。

円頓戒濫觴らんしょうは慧思の『授菩薩戒儀』において授戒の儀式が創案されたのに求められ、智顗が『菩薩戒経義疏』を著すことによって円頓戒の思想的意義が示された。円頓戒の正依である『法華経』においては、法師品に法師が修すべき三軌戒、安楽行品に真の安らぎの生活を得る四安楽行、普賢菩薩勧発品に仏に護られた生活をするための四種戒が説かれるものの抽象的な理念の戒(理戒)が示されるのみで、具体的な戒法(事戒)は『梵網経』に求めることになる。『梵網経』には仏戒を受け真の仏弟子となることを勧めて、具体的な戒法として十重四十八軽戒が定められている。さらにこれらの戒法は『瓔珞経』によって止悪の摂律儀戒しょうりつぎかい、修善の摂善法戒しょうぜんぼうかい、そして一切衆生のための摂衆生戒せつしゅじょうかい三聚浄戒に分けられ、一得永不失いっとくようふしつ授戒の種類とその方法が説き示された。智顗は、天台の菩薩戒声聞戒に比べすぐれた戒法であるとして三乗不共の別菩薩の戒法と位置づけ、純大乗の円戒、妙戒を確立した。その戒体は生まれつきの色心不二の性無作仮色とし、発動させることの必要性を説いた。

湛然は『授菩薩戒儀』を著し、開導三帰請師懺悔発心問遮授戒証明現相説相広願勧持の一二の次第により一白三羯磨いちびゃくさんかつまの形式による授戒作法を示した。次いで明曠みょうこうは、慧威の戒疏を刪補さんぽしたという『菩薩戒刪補疏』を著し、智顗が別菩薩の戒法としたのに対し、法華円教と梵網戒との関係を明確にし、梵網戒を法華円頓の戒法とした。

中国の展開を受けた最澄大乗戒壇設立に尽力し、明曠の思想を導入して『法華経』と『梵網経』との戒法の関係をさらに明確にし、華厳別教の梵網戒を『法華経』の円意による戒法とし、中道実相正観がそのまま一乗三学であり、円教教意による三聚浄戒がそのまま円戒であるとして円頓戒を確立した。その後、円仁は『顕揚大戒論』を著し、南都の小戒に対して一乗妙戒を強調し円頓大戒の独立性が明確となり、安然は『普通授菩薩戒広釈』を著して授戒の意義づけをした。すなわち伝授戒・発得戒・性徳戒の三種の戒を説き、授戒の儀式を通して本有の仏性の開発の必要性を説き、また授戒四恩に報いるためのものとした。安然以後は恵心檀那両流と黒谷流が栄えた。恵心檀那両流は理戒を重視する乗戒一致の立場で、天台の三諦三観がそのまま三聚浄戒であるとし、天台教観以外に別に戒法を伝受することはしなかった。一方、黒谷流作法得法の事戒を強調し、教観以外に戒法を相伝する乗戒二学の立場をとったが、次第授戒を重視する黒谷流が隆盛した。

黒谷流叡空から相承した法然には、湛然戒儀浄土教的に改変した『授菩薩戒儀』がある。これには黒谷在住のときに著された古本と嵯峨二尊院でつくられた新本の両戒儀がある。法然専修念仏を説きながらも、一方で釈尊以来の戒法を護ることを説いた。雑行として廃捨すべき戒法を持つことについて七祖聖冏は『顕浄土伝戒論』を著し、①出家者は如来に代わって一代の教えを伝持し衆生を導く必要がある②円頓戒法然にも伝えられている③止悪修善は諸仏の通誡である④法然は戒書を著し天下の戒師となっている⑤少分の雑行は許されており念仏助業である⑥たとえ破っても受戒功徳は大きく無戒ではなく戒体は失われない、とある。法然法語には①戒法厳修②戒法雑行③戒法随分の三つの立場のものがあるが、往生行としての戒は廃捨されても、通軌・助成の立場では廃捨されていない。この点について近世近代の浄土宗徒、特に持律主義の僧によって種々の議論がなされている。円頓戒声聞戒のように別行の必要はないが、それでも受戒により護持できない自己を知ることになる。自誓受戒であっても儀式を通して戒体を発動させることになるが、結局破戒の身となる自覚をもつことになる。そこに懺悔の心も現れ、三学非器の自覚のもと念仏へと誘導されることになる。


【資料】『授菩薩戒儀』(聖典五)


【参考】恵谷隆戒『円頓戒概論』(大東出版社、一九三七)


【参照項目】➡一白三羯磨戒壇三聚浄戒


【執筆者:福𠩤隆善】