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都市化と仏教

提供: 新纂浄土宗大辞典

としかとぶっきょう/都市化と仏教

都市化とは、人口が特定の場所に集中し都市を形成していく過程を意味するとともに、都市部の拡張および都市文化が周辺地域に広まる過程も意味する。具体的には、都市人口の増加に伴う周辺人口の減少、都市の発展・充実、都市文化や都市的生活様式の社会全体への一般化などとして現れる。日本においては一九六〇年代において本格的な都市化の時代を迎えたとされ、それは高度経済成長期と時期を同じくする。戦後の社会変動と宗教の関わりを論じた森岡清美によると、戦後は、都市化に伴って生じた地域共同体の変化や伝統的なイエ制度の弱体化などによって特定教団に所属しない宗教的浮動層が都市部を中心に多数出現し、それに伴って伝統宗教離れの現象が起こった。それをうけるかたちで新宗教教団宗教的浮動層を獲得していくが、その際、浮動層が求める新しいコミュニティを提供することによって教線を拡大していったとされる。つまり、都市部における宗教的浮動層のニーズを伝統仏教は満たすことができず、特に、原則としてイエ観念に基づいた布教を行う伝統仏教は、日本社会全域で生じた核家族化や個人化に対する対応が大きく遅れた、というのである。しかし実際には、同じ一九六〇年代に、真宗大谷派の「同朋会運動」を皮切りに、浄土真宗本願寺派の「門信徒運動」、浄土宗知恩院の「おてつぎ運動」、天台宗の「一隅を照らす運動」など、個人の信仰あるいは世帯の宗教に焦点を当てた活動が行われるようになった。その意味において、布教教化方針の現代化が試みられたということができよう。ただし現実としては、都市部のみならず地方においても寺院の現代的意義は問われ続けており、多くの寺院が伝統的な教化活動を踏まえながら、新たな実践を模索しているのが現状である。


【参考】藤井正雄『現代人の信仰構造』(評論社、一九七四)、森岡清美「社会変動と宗教」(『現代社会と宗教』東洋哲学研究所、一九七八)、芹川博通『都市化時代の宗教』(東洋文化出版、一九八四)、高柳俊一「都市化と宗教」(『岩波講座宗教と科学 九 新しいコスモロジー』岩波書店、一九九三)


【参照項目】➡近代化と宗教


【執筆者:江島尚俊】