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脳死

提供: 新纂浄土宗大辞典

のうし/脳死

脳幹を含めた全脳の機能が不可逆的に喪失した状態。脳幹には自発呼吸、血圧維持など、生命維持に必須な機能の中枢があり、かつては脳幹の損傷は直ちに死につながっていた。しかしながら、一九六〇年代に人工呼吸器が普及、それまでは脳幹機能が停止すればすぐに心臓機能も停止していたが、人工呼吸器により呼吸が継続され心臓機能も維持されるようになった。このため従来の三徴候死(心臓拍動停止、呼吸停止、瞳孔散大)では死を判定できない状況が生じ、脳死という考え方が導入された。脳死の状態とは、医師が臨床的に診断しうるものであり、そのための診断基準が脳死判定基準と呼ばれるものである。初期の脳死判定基準で有名なものは「ハーバード大学基準」で、当時は脳死とはいわずに不可逆的昏睡といわれていた。この言葉は植物状態と混同しやすいため現在では使われていない。現在日本で判定に使われているのは昭和六〇年(一九八五)に定められた厚生省基準で、当時の研究班長の名前から「竹内基準」と呼ばれる。この基準では六歳未満の小児が適用外であること、全脳死を判定する最新の判定法が取り入れられていないことなどの問題がある。脳死判定で得られるのは脳の状態であり、これを人の死とするかどうかは社会的合意に依存している。脳死という概念は不変の概念であるのに対して、その判定方法である脳死判定基準は診断技術の向上によって変化する可能性が大きく、結果として時代によって脳死の状況が変化してしまうという問題がある。脳死を人の死とするかどうかについては、平成九年(一九九七)の「臓器の移植に関する法律」の制定以前から、同二一年の法律改正に至る約二〇年間にわたって議論が続けられてきた。改正前の法律では臓器提供の意志表明をした者のみに脳死を適用することになっていたが、改正後は脳死を一律に人の死とすることになった。伝統的な死生観を重視する伝統教団からは、その拙速な導入に疑問が提示されている。


【参照項目】➡臓器移植三徴候死


【執筆者:今岡達雄】